よろしくお伝えくださいの意味と敬語表現
日常生活でもよく耳にする言葉ですが、誤用されることも少なくありません。混乱を招かないためにも、本来の意味を理解しておきましょう。より丁寧な表現やほかの言い回しも覚えておくと便利です。
ちょうどよく伝えてほしいときに使われる
よろしくは、形容詞『よろし(宜し)』の連体形で、すぐれたものに対する『よし』の評価より一段階下の表現です。
よろしくお伝えくださいの『よろしく』には『適度に』『程よく』という意味が込められています。
「よろしくと伝えてください」ではなく「よろしいように伝えてください」とかみ砕くと、本来の意味をイメージしやすいでしょう。
伝えてほしい具体的な内容は指定せず、自分の気持ちや様子を相手の言葉でちょうどよく伝えてもらいたいときに使用できます。
気をつけたいのが「よろしくお願いします」といった、挨拶としてのよろしくを伝えるフレーズではない点です。
よろしくお願いしますは『よろしく進むように取り計らいを頼む』意味合いでも使われます。あくまでも、感謝をことづける表現として使いましょう。
丁寧に言うと「よろしくお伝えいただけますか」
よろしくお伝えくださいは、ビジネスシーンなどのかしこまった場でもよく使われます。敬語や丁寧な言い回しをマスターしておきましょう。
よろしくお伝えくださいの敬語は『よろしくお伝えいただけますか』です。
くださいの部分を謙譲語の『いただけますか』に変えると、より丁寧な印象を与えられるでしょう。
▼使い方の例
・今回の件については、社員のみなさまにも何卒よろしくお伝えください。
・○○さんにも、よろしくお伝えいただけますと幸いです。
・久々にお目にかかれて嬉しかったです。奥様にも、どうぞよろしくお伝えくださいませ。
シチュエーションに合わせて自然に取り入れられるように、引き出しを増やしておきましょう。
「よしなにお伝えください」も使える?
『よしなに』は『うまい具合になるように』『よいように』など、よろしくとほぼ同じ意味をもつ副詞です。
よろしくの部分を入れ替えて『よしなにお伝えください』とすることもあります。
目上の人に使っても問題ない言葉ですが、相手や状況に応じて使い分けることが大切です。
一般的によろしくほど使用頻度が高くなく、相手が意味を知らないことも少なくありません。
▼使い方の例
・予算縮小について、急なお話になってしまい申し訳ありません。御社の○○様にも、よしなにお伝えいただけると幸いです。
よろしくと同様に先方に伝えてほしい内容を具体的に示さないため、仕事などミスが許されないシーンでは使用を控えたほうがよいでしょう。
目上の人に使っても問題ない?
一見すると丁寧な表現ですが、取引先などの目上の人に使う際にはひと工夫が必要です。
前後の言葉やクッション言葉を意識して印象をやわらかくすると同時に、切実な気持ちを表しましょう。
日ごろの感謝をきちんと伝える
よろしくお伝えくださいは、感謝の気持ちを伝えてほしいときにも使える言葉です。
ただし、ストレートに言うと、伝言を一方的に押し付けているように聞こえてしまいます。
目上の人にはより丁寧な表現を意識しましょう。いただくや『幸いです』などの謙譲表現を加えると、伝言の強制のニュアンスをやわらげられます。
▼使い方の例
・○○様にはいつもお世話になっております。お手数ですが、よろしくお伝えいただければ幸いです。
気遣いの表現として有効ですが、手紙や電話の最後に使われることが多い言葉でもあります。
社交辞令として受け取られて、伝えてもらえない可能性があることも頭に入れておきましょう。
きちんとお礼が言いたいときは、後から改めて直接自分の口で伝えるのがマナーです。
クッション言葉でより丁寧に
『恐れ入りますが』『お手数ですが』などのクッション言葉を使うと、言葉の印象がやわらかくなると同時に丁寧さもアップします。
▼使い方の例
・お忙しいところ恐れ入りますが、どうぞよろしくお伝えください。
・お手数ですが、○○様にもよろしくお伝えいただけますと幸いです。
特にビジネスシーンでは、相手にとって大きな負担がかからない場合もクッション言葉で謝罪や感謝の気持ちを表すことがよくあります。巧みに取り入れて、コミュニケーションをスムーズに進めましょう。
くれぐれもを使うことも可能
真剣な気持ちを相手に訴えかけたい場合『くれぐれも』を付け加えてもよいでしょう。
くれぐれもは漢字で『呉々も』『呉呉も』と書きます。漢字で同じ字を重ねるのは、意味を強調したいときです。
敬語ではありませんが、社内・社外問わず目上の人にも使っても失礼にはなりません。
くれぐれもは副詞のため、敬語表現には変えられないのが特徴です。前後を敬語表現敬語にして調節しましょう。
▼使い方の例
・近いうちにご挨拶に伺いますので、くれぐれもよろしくお伝えいただきたく存じます。
使う際は、類語である『ぜひ』『どうか』『どうぞ』と使い分けたいところです。
『ぜひ』は、とにかくお願いを聞き入れてほしいという強い気持ちを表現できます。
『どうか』は難易度の高いことを懇願するとき、『どうぞ』はくれぐれもよりも気軽なお願いに適しているでしょう。
相手に言われたらどのように返事をすればよい?
よろしくお伝えくださいと言われた際、話し相手・自分・伝える相手の関係によって、適切な返事が異なります。
伝えるときには、相手に応じて尊敬語と謙譲語を正しく使い分けて、敬意を示しましょう。
目上の人に伝えるとき
伝える相手が身内や社内ではない目上の人の場合は、伝える相手に対して敬意を払う必要があります。
敬語表現として『お伝えします』を使いましょう。『伝える』の前に付けた『お』は接尾語です。
敬意を向ける相手によって、尊敬語・謙譲語・丁寧語いずれかの意味を付ける言葉に加えることが可能です。
『お伝えする』の場合、伝えるのは自分自身のため、謙譲語の意味をプラスしましょう。
▼使い方の例
・承知いたしました。○○様にお伝えします。
話し相手も伝える相手も同じ身内で、話し相手よりも伝える相手のほうが目上ならお伝えしますを使います。
例えば、話し相手が部長で伝える相手が社長の場合、伝える相手のほうが目上にあたるため、お伝えしますが正解です。
▼使い方の例
・(部長に向かって)先ほどの件、承知いたしました。後ほど、社長にもお伝えします。
身内や社内の人に伝えるとき
社外の人から伝言を頼まれたとき伝える相手が身内や社内の人の場合は、話し相手に対して敬意を払う丁重語の『申し伝える』が適しています。
▼使い方の例
・ご連絡いただきました件は、部長の○○に申し伝えます。
『申す』は言う・話すの謙譲語です。伝える相手が自分にとって目上の人でも、自分側の立ち位置として申し伝えるを使います。言ったのが社外の人なら、そちらを立てるのがマナーです。
お伝えしますと申し伝えますの使い分けに自信がないなら『かしこまりました』『承知いたしました』など、引き受けたことを返事するだけにとどめてもよいでしょう。
「お伝えください」と言われたときの伝え方
よろしくお伝えくださいと言われたときの伝言は『相手に合わせて敬語に言い換えて伝える』のがベターですが、カギ括弧で囲う手もあります。
▼使い方の例
・○○さんが「よろしくお伝えください」と言っていましたよ。
『~と言っていました』の部分は、相手によって尊敬語の『おっしゃいました』と謙譲語の『申していました』を使い分けることも大切です。
お伝えくださいと言ってきた人も伝える相手も自分にとって目上の人なら、尊敬語を使います。
▼使い方の例
・部長が「明日の会議には課長にもご出席していただければ」とおっしゃっていました。
お伝えくださいと言ってきた人が身内や社内の人で、伝える相手が目上の場合は、謙譲語が適当です。
▼使い方の例
・○○様が「どうぞよろしくお伝えください」と申していました。
よろしくお伝えくださいがよく使われる場面
挨拶とセットで使われることの多いフレーズで、ビジネスシーンだけでなく日常生活でも気軽に使われています。
メールの結びや別れ際の挨拶としてもしっくりくるため、好んで使う人が多いのでしょう。
メールの結びに
メールや文書の結び言葉としてもよく目にします。相手の家族に対して「ご家族のみなさまにも…」と使われることが多いでしょう。
▼使い方の例
・またのご来店、心よりお待ちしております。ご家族のみなさまにも、どうぞよろしくお伝えくださいませ。
・先日はお忙しい中、打ち合わせの時間をいただきありがとうございました。ご参加いただきました○○様にも、よろしくお伝え願います。
感謝の気持ちはもちろん、謝罪の意を伝える際の結び言葉としても使用できます。
▼使い方の例
・急遽、イベントが中止になったことを深くお詫び申し上げます。ほかの参加者のみなさまにも、よろしくお伝えくださいませ。
社交辞令として
特別な意味はなく、挨拶感覚で付け加える人も少なくありません。日常生活では、共通の知人がいる人と別れる際によく使われます。
▼使い方の例
・○○さんもお元気にされていますか。またみんなで集まりたいですね。どうぞ、よろしくお伝えください。
ビジネスシーンでも、社交辞令で使われることが多々あるでしょう。
ただし、本気で伝えてほしくてお願いする場合もあるため、見極めが肝心です。
取引先や上司など大切な人から頼まれた場合は、社交辞令であっても伝えたほうが無難でしょう。
こんな場面にも
相手を労わっている気持ちを表現したいときや、お悔やみ・感謝の言葉を伝えたいシーンでも幅広く使われています。
ここぞというときに活用することで、大切な人に伝えたい想いをより強く表現できるでしょう。
お見舞いの言葉
病気やケガをした人へのお見舞いの言葉として使われることもあります。
▼使い方の例
・ご退院、誠におめでとうございます。お祝いの気持ちを込めまして、心ばかりの品をお送りいたしました。ご家族のみなさまにも、よろしくお伝えください。
『お大事にしてください』と伝えてほしいときに、よろしくお伝えくださいを使うのは適切ではありません。
「こちらの気持ちをうまく伝えてください」という意味になってしまい、相手への心配や気遣いの気持ちはやや弱まります。
「どうぞお大事にと申し伝えください」と謙譲語を使ってストレートに伝えると、失礼なく労りの気持ちが届くでしょう。
葬儀の挨拶やお悔やみの言葉
故人と関わりがあった人に対して亡くなったことを知らせる『死亡通知』や『葬儀通知』です。少しでも多くの人に周知してもらう目的で、言づてのように使用することもあります。
▼使い方の例
・度々お見舞いいただきましたが、本日17:00に亡くなりました。お手数ですが、職場のみなさまにもよろしくお伝えください。
故人の家族に対するお悔やみの言葉として、末尾に添えるケースも一般的です。
▼使い方の例
・私にできることがあれば何なりとお申しつけください。みなさまにもよろしくお伝え願います。
あくまでも伝言を頼む意味のため、前に心づかいのひと言を添えるとよいでしょう。
お礼状
お世話になった人へのお礼状にも、たびたび登場するフレーズです。ビジネスシーンでは、相手の会社で関わりのあった人へ、まとめてお礼を伝えてもらう際などに重宝します。
▼使い方の例
・このたびは貴社のインターンシップに参加させていただき、ありがとうございました。○日間にわたってお世話になった○○課のみなさまにも、よろしくお伝えください。
伝言を頼むという体裁上『よろしくお伝えいただければ幸いに存じます』と、謙譲表現にすると丁寧です。
体調不良などで入院した際には、気にかけてくれた人に対して感謝の気持ちを伝えるときに添えるとよいでしょう。
▼使い方の例
・今月中には退院できる見込みです。お心遣いのお菓子もありがとうございました。みなさまにもよろしくお伝えくださいますよう、お願い申し上げます。
まとめ
ビジネスシーンだけでなく日常生活のいたるところで使用頻度の高いフレーズです。
本来の意味と正しい使い方を心得ておけば、表現の幅が一気に広がるでしょう。
相手を立てると同時にコミュニケーションも円滑になり、一目置かれる存在にグッと近づきます。