いただけますでしょうかは誤り?
会話の中には、好ましい表現ではないが違和感がないため使っている敬語がたくさんあります。
丁寧にお願いする際によく用いる「いただけますでしょうか」は、誤りなのでしょうか?
メールなどでよく使われるが実は二重敬語
メールでよく使われる「〇〇いただけますでしょうか?」という表現は『二重敬語』です。
▼使い方のNG例
・×お忙しいところ恐縮ですが、ご検討いただけますでしょうか?
二重敬語とは一つの語において、尊敬語・謙譲語・丁寧語など同じ種類の敬語を二つ重ねて用いる表現のことです。古典では二重敬語もたびたび登場しており、言語としては誤りではありません。
ただ、相手にまどろっこしい印象を与えるため、ビジネスシーンや公的な文書で使うのは好ましくないとされています。 いただけますでしょうかは、もらうの謙譲語『いただく』に、丁寧な断定の助動詞『ます』、丁寧な断定の助動詞『です』から成り立つ言葉です。
丁寧な助動詞のますとですが重複しているため、明らかな二重敬語といえるでしょう。
いただけませんでしょうかも二重敬語
相手に依頼するときの丁寧な表現として『いただけませんでしょうか』があります。
いただけますでしょうかは、相手に許可を求める表現です。 対して、いただけませんでしょうかは相手にYESかNOの判断を委ねる形になり、前者よりもさらに丁寧さが増します。
▼使い方のNG例
・×ご都合のよい日時を教えていただけませんでしょうか?
ビジネスシーンでは敬語表現として定着していますが『いただく』と『ます』が重複する二重敬語であるため、別の言い方を使うほうがよいでしょう。
していただいてもよろしいでしょうかは?
『していただいてもよろしいでしょうか』は、よく耳にする言い回しです。
▼使い方の例
・ここにご住所をお書きいただいてもよろしいでしょうか?
・見せていただいてもよろしいでしょうか?
『していただく』は『してもらう』の謙譲語で、『よろしいでしょうか』は相手に許可や判断を仰ぐときに使う丁寧な表現です。
『よろしい(宜しい)』は『よい』を丁寧にした形容詞で、後に続く『でしょうか』は『だろうか』を丁寧な疑問表現にしています。 していただいてもよろしいでしょうかは言葉遣いとしては間違っていません。
ただ、本来「してもらえないか」というところをわざわざ「してもらってもよいか」という言い回しにしているため、人によっては複雑でまどろっこしく感じます。 『してもよろしいですか』と簡潔に尋ねる表現にしましょう。
どんな言い方が正しいの?
相手に何かを依頼する際の言い回しはたくさんあります。二重敬語や過剰表現は「相手に敬意を払いたい」という気持ちの表れですが、言葉遣いに厳しい年上の人ほど過敏に反応するものです。
ビジネスシーンでは正しい表現を使いましょう。
いただけますか
『いただけます』は、もらうの謙譲語いただくと可能の助動詞『ける』『れる』、丁寧語の『ます』から成り立つ言葉です。
『〇〇いただけますか』の形で使うケースが多いでしょう。
▼使い方の例
・恐れ入りますが、木村さんにこの資料を渡していただけますか?
・下記の通りにご手配いただけますと幸いです。
「〇〇していただけますと幸いです」など依頼表現のバリエーションが多く、目上の人やお客様にも問題なく使える言い回しです。
似た言い回しに『いただきます』があります。いただきますは相手への強制力がある断定的な表現です。
▼使い方の例
・ご来場の際は、入り口にて入場券を提示していただきますようお願い申し上げます。
いただけますは相手に行動の判断を委ねるニュアンスがあるため『よかったら~してもらえますか?』と可能かどうか尋ねる際に使えます。
くださいますか
いただくとくださるは相手に依頼をするときに使う丁寧な言い回しです。どちらも同じくらい頻度が高く丁寧度にも大きな差はありませんが、違いをあげるとすれば『敬語の種類』が異なります。
『くださいますか』の『くださる』は『与える』の尊敬語で、動作の主体は相手です。相手の行為を立てる目的で、尊敬表現を加えます。 「〇〇くださいますか」は「〇〇してくれますか」を尊敬表現で言い表したものです。
▼使い方の例
・鈴木を呼んでまいりますので、少々お待ちくださいますか。
・大変申し訳ございませんが、明日の締め切りをあさってに変更してくださいますか。
いただけますかは、自分の動作に対してへりくだる謙譲表現になります。相手に依頼するときに、お願いする自分の立場を相手よりも下げることで、丁寧に頼む気持ちを示せるでしょう。
ほかの言葉に言い換えてみよう
いただけますでしょうかは、ほかのさまざまな言葉に言い換えられます。場面に応じて、適切な表現を選びましょう。
願えますか
ビジネスシーンでは、相手にお願いをするとき『〇〇願えますか』という表現が多用されます。
▼使い方の例
・鈴木部長にお伝え願えますか?
・率直なご意見をお聞かせ願えますか?
『願う』はもともとは、他人に自分の希望や要望を申し立てる意味です。動詞の連用形や動作性名詞などに付けることで、していただくと同様の意味合いになります。
動作性名詞とは、名詞に『する』を付けると動詞として使える単語です。料理する・運動する・冒険するなどがあげられます。
▼使い方の例
・明日のミーティングは、部長もぜひご参加願えますか?
実社会では敬語として定着している『おねがいできますでしょうか』や『願えますでしょうか』は、丁寧語のますとですが重複する二重表現です。
不自然と思わない人が多いですが、ビジネスシーンでは正しい表現を心がけましょう。
仰ぎたく存じます
『仰ぐ』は、目上の人や尊敬する人に対して教示や援助を求めるという意味です。 『〇〇たく存じます』は、希望の助動詞『たい』・思うの謙譲語『存じる』・丁寧語の『ます』から成り立っています。
上司や先生などの目上の人に指示を仰ぐ、または教えを乞うときに使える言い回しです。
▼使い方の例
・取引先との会議の内容について、ご指示を仰ぎたく存じます。
・本案件につきまして判断を仰ぎに伺いたいと存じます。
ビジネスシーンでは、メールの最後に添えて使われることが多いでしょう。
賜りたくお願い申し上げます
『賜りたくお願い申し上げます』は、会話よりもメールや挨拶文の中で用いられる形式的でかしこまった表現です。
『賜る』は与えるの尊敬語で、目上の人から物や意見をもらうときや、目上の人が下のものに与えるという意味があります。
▼使い方の例
・ご不便かとは存じますが、何卒ご理解賜りたくお願い申し上げます。
・(結婚式の挨拶で)未熟な二人でございますが、今後とご指導ご鞭撻を賜りたく存じます。
賜るには、もらうの謙譲表現としての意味もあります。自分が動作の主体で目上の人から意見をもらった場合は、いただいたという意味で使いましょう。『賜りました』の形が一般的です。
▼使い方の例
・貴重なご意見を賜りましたことを、心より感謝いたします。
依頼するときに使える便利な言葉
クッション言葉の有無や言葉の選び方によって、相手への印象が変わります。少々お願いしづらい依頼でも、丁寧な表現を使って相手を立てれば快くOKしてくれるかもしれません。
教えてほしいときはご教示、ご教授
目上の人の助言や教えを必要とするときは『教えていただけますか』『ご指導いただけますか』と言うのが通常ですが『ご教示』や『ご教授』を使えば、よりあらたまった表現になるでしょう。
▼使い方の例
・(上司に対し)改善点についてご教示願えますか?
・(先生に対し)アジア人で初めてノーベル賞を受賞したタゴールの思想についてご教授いただけますか?
『ご教示』は知識や方法、手段などを相手に教え示す・伝達するという意味です。 『ご教授』は、英語でいう『teach』にあたり、知識や技芸を一定の期間にわたって教えるというニュアンスが含まれています。
仕事で上司のアドバイスが欲しいときは『ご教示』、スキルを磨くための指導をお願いするときは『ご教授』を使うとよいでしょう。
クッション言葉を入れて印象アップ
ストレートにお願いするよりも、クッション言葉を入れたほうが相手からの印象がよくなります。本題に入る前に「ちょっといいですか?」「すみませんが…」という人は多いでしょう。
ビジネスシーンやメールでは『恐れ入りますが』『ご多忙中大変恐縮ですが』『ご足労をおかけしますが』など、より丁寧な表現を使います。
▼使い方の例
・ご多忙中大変恐縮ですが、この書類にサインしていただけますか?
・ご足労をおかけしますが、弊社にお越しいただけますか?
重要案件のときにはご査収ください
上司や顧客に必ず確認してほしい案件があるときは『ご査収(ごさしゅう)』を使いましょう。
査収には『内容をよく調べて受け取ること』の意味があり、相手は「受け取ってチェックすべき書類がある」と認識します。
▼使い方の例
・本メールに見積書を添付いたしました。お忙しいところ恐縮ですが、ご査収くださいますようお願い申し上げます。
・参加者の名簿を同封いたしましたので、ご査収願います。
ご査収を使ったときは、必ず『相手が受け取るべき資料』を添付または同封しましょう。書類やファイルがないのにご査収を使うと「何をチェックすればよいの?」と相手は困惑してしまいます。
ただ目を通すだけでよい場合は『確認』を使ったほうが無難です。
まとめ
いただけますでしょうかやいただけませんでしょうかは、ごく日常的に使われる表現です。
しかし、相手によってはまどろっこしさを感じるかもしれません。 取引先や目上の人にビジネスメールを送るときは、別の表現に言い換えたほうが無難でしょう。ご査収やご教示など、ビジネスでよく使う言葉は例文ごと覚えておくのがおすすめです。