差し上げますの意味と正しい使い方
メールや取引先との会話の中で、差し上げますはたびたび出てきます。
敬語の中では、謙譲語にあたり 『自分自身を謙遜しへりくだることで相手を高めて敬う』表現方法です。控えめで他人に敬意を払う日本人らしさが感じられます。
しかし、自分はへりくだらず、相手の立場を1段上へ高める尊敬語と混同しやすいのが難点です。「まぎらわしい」と苦戦する人も多いでしょう。
謙譲語での正しい使い方を知れば、効果的に相手への敬意を示せます。
相手が望んでいることをするとき
そもそも、差し上げるは『あげる』『する』の謙譲語。『高く持ち上げる』という意味もあります。
相手への敬意から自分を下げ、相手の位置まで品物や行動を持ち上げる状況を表した言葉です。 『相手のためにする行為』についての敬語と考えるとよいでしょう。
▼使い方の例
・あなたが前からほしがっていた本を見つけました。差し上げましょうか?
・その荷物は重いでしょう。車で運んで差し上げましょうか?
相手が望んでいる、もしくはメリットがある物や行動に対して使う言葉です。
相手が望んでいないことや、一方的にこちらがしてあげたいアクションに対して「差し上げます」を使うと、恩着せがましく失礼な印象になりかねないため注意しましょう。
日常会話で丁寧に話すとき
就業中に上司や先輩などと話すときにも、差し上げますは使用できます。
ただし、差し上げますの元になる動詞は『与える』です。 乱用すると「やってあげる」といった、上から目線の印象になりかねません。
日常生活では『丁寧な発言をすべきとき』に限って使うようにしましょう。「差し上げましょうか?」と疑問形にするだけで、やわらかい印象になります。
▼使い方の例
・私からご説明・ご連絡差し上げましょうか?
・時間が空くため、近くなったらこちらからお電話差し上げましょうか?
業務報告や取引先への連絡などについて提案するようなシチュエーションで使われます。あくまでも、相手に不都合が生じそうなときに使いましょう。
連絡することを伝える場合
差し上げますを使う場面として、真っ先に思い浮かぶのが『連絡』について言及するときでしょう。
連絡に関する正しい差し上げますの使い方や、NGな例を解説します。
連絡差し上げます
『ご連絡差し上げます』は、使い方を誤ると自分勝手で傲慢な印象を与えかねない表現です。
自分の都合やメリットを優先する状況で使うと、上から目線のような印象になる場合もあります。 上司や取引先などから質問された際に、その場での返答が難しい状況もあるでしょう。
「状況を確認したうえで、後ほどご連絡差し上げます」などは、相手によっては「今答えられなくて当然」と思っているようなニュアンスを感じる人もいます。
一方で『相手にとって都合のよいタイミングで有益な連絡をする』場合、ご連絡差し上げますを使うのは適切です。
「まとめてほしい」と依頼された資料などについて「できあがり次第、ご連絡差し上げます」伝えると、提出のタイミングにも触れた印象のよい答え方ができます。
連絡が遅くなった場合
差し上げますは少し表現を変えるだけで、事情があって連絡が遅くなったときにふさわしい表現になります。
具体的には『ご連絡差し上げるべきところ』として、謝罪や感謝の言葉につけ加えるのが適切です。
▼使い方の例
・この度は早急にご連絡差し上げるべきところ、遅くなりまして申し訳ございません。
・当方よりご連絡差し上げるべきところ、先にご連絡いただきましてありがとうございます。
「早く連絡をしたかったけれど、叶わなかった」と丁寧に言うことで「申し訳ない」という思いが率直に伝わる表現になるでしょう。
シンプルに『ご連絡差し上げるのが遅くなり』とするのもよい方法です。
「ご連絡差し上げるのが遅くなりそうです」などとして、連絡が遅れる可能性を予告する際にも使えます。
お電話差し上げます
連絡手段がメールやチャットツールなどではなく、電話に限られる際には『お電話差し上げます』もよいでしょう。
相手からの問い合わせや担当者が不在の場合、折り返しの電話を申し出る際にも使えます。
▼使い方の例
・お電話差し上げるとしたら、何時頃がご都合よろしいでしょうか?
・折り返し、こちらからお電話差し上げましょうか?
ただし、こちらが電話するのを一方的に望んでいる場合、押しつけがましい印象になります。勧誘やアポイントメントのお願いのときなどは、お電話差し上げますを使うのは避けましょう。
物をあげる場合
差し上げるは、物をあげる・差し出す際の謙譲語でもあります。単に物品を与えるのではなく、相手より自分の立場を1段下に置いて『物を掲げて差し出す』ような表現方法です。
実際に物品のやり取りでも使われる表現のため、マスターしておくと実生活で役に立つでしょう。
こちらを差し上げます
物を差し上げるをほかの言葉で表現すると『寄贈する』『進呈する』などです。口語的にした表現が差し上げますと考えると、わかりやすいでしょう。 贈り物や寄付をする際に向いた言い回しです。
しかし、相手が望んでいない場合や、何かの対価としてものをあげる場合には『与えてやっている』という印象を与えかねません。
相手にメリットがあり、かつ対象となる物品を受け取るかどうか選択できる立場のときに使うのがよいでしょう。
▼使い方の例
・お望みでしたら○○を差し上げましょうか?
・特典としてこちらの商品を差し上げます。
報酬に関しては使わない
差し上げますは、相手に利益があるシチュエーションに適した表現です。
労働や依頼の対価としての『謝礼や報酬』に対して使うのは、失礼にあたります。
同じ説明会に同席した人たちの中でも、説明を自ら聞きにきた立場の人に「くわしい資料を差し上げます」と伝えるのは適切です。望んでいる情報を与えるため、相手側にメリットがあります。
一方で、説明会開催のために受付や進行など、何らかの働きをした人に対しての対価に言及する際はふさわしくありません。「報酬を○○円お支払いします」と言うのがよいでしょう。
差し上げてください
人を介して、誰かに物品を渡す際に「○○さんへ差し上げてください」と言う機会は多いでしょう。気軽に使える表現ですが、立場の違いによっては誤った表現になりえます。
例えば、自分の部下へ取引先にお土産を渡すよう依頼する場合には、差し上げてくださいは正しい言い回しです。
しかし、取引先の担当者に対して、物品や資料を託す場合には注意しましょう。渡す相手の立場が同列もしくは、より高い人に向けた場合は失礼になりかねません。
▼使い方の例
・いつも御社でお世話になっている○○部長にも、差し上げてください。
のような使い方は誤用です。「お渡し願えますか?」「○○様にもどうぞ」などの言い換え表現が適しています。
差し上げますの別の言い方
差し上げますは日頃から耳や口にすることが多い表現ですが、別の言い方もできます。シチュエーションによっては別の言い回しのほうが、向いている場合もあるでしょう。
差し上げますの類語や同義語を紹介します。
致します
『致します』はビジネスシーンでかなり頻繁に使う表現です。
『する』の謙譲語ですが、丁寧語の『します』を一段と丁寧にした表現として使用する人が多いでしょう。
▼使い方の例
・ご来場いただきありがとうございます。記念品を贈呈致します。
・承知しました。後ほどご連絡いたします。
シンプルですが、誤用の少ない表現です。差し上げますが適切か迷ったときは、致しますを代用するとよいでしょう。
なお、致しますと漢字にする場合は『する』『至らせる』といった動詞としての役割を担うときです。
「よろしくお願いいたします」の場合は『お願い』だけで、すでに『お願いする』と動詞の意味が含まれています。『いたす』は補助動詞として、ひらがなで表しましょう。ご連絡いたしますも同様です。
申し上げます
『申し上げます』も、連絡や提案をしたいときに代用できます。
『言う』の謙譲語である『申し上げる』に、丁寧語の『ます』をつけた言い方です。目上の人に対して使う際に向いています。
▼使い方の例
・○○の日程について申し上げます。
・その点につきましては○○からご説明申し上げます。
申し上げますの前に『ご』をつけて、より丁寧な言い方をすることも一般的です。『ご~謙譲語』は謙譲語の定型の一つで、二重敬語にはなりません。
また、御祝いや感謝・謝罪を表現したい場合にも便利です。
▼使い方の例
・本日は、心よりお祝い申し上げます。
・先日の件、深くお詫び申し上げます。
『お祝い・謝罪を言う』を相手を立てた謙譲語で表現すれば、自分が能動的にしたいと思っている意思を表せます。使いやすく耳触りのよい表現です。
させていただきます
『させていただきます』は『する』の丁寧な表現の一つです。相手の許可や証人が必要な場面では、差し上げますよりも適した表現といえるでしょう。
自分がこうしたいという願望を述べるのにも使えます。
ビジネスシーンでは
▼使い方の例
・その件につきましては私よりご報告させていただきます。
・本日は早退させていただきます。
などの使い方が一般的でしょう。自分のアクションを示す際に使う表現です。
まとめ
差し上げますは、あげるの謙譲語。自分より上の立場の人にメリットがある事柄について使います。 耳慣れた表現ですが、意味がまぎらわしく注意が必要な敬語の一つです。
乱用したり誤った使い方をしたりすると「してやってる」のような押しつけがましい印象になりかねません。 時には、疑問形や「差し上げるべきところ」などと、言い回しを工夫しましょう。
正しい敬語の使い方はもちろん、語彙力や表現力のある女性を目指したいものです。