重々承知の意味
『重々承知(じゅうじゅうしょうち)』とはどのような意味を持つ表現なのでしょうか。
二つの言葉に分け、それぞれ詳しく解説します。
重々は十分・よくよく
重々をじゅうじゅうと読む場合は、『重』という漢字を『重ねる』の意味に捉えます。「何度も繰り返すこと」「十分であること」という二つの意味で用いるのです。
何回も繰り返す意味の重々は、『重ね重ね(かさねがさね)』という言葉と同じ意味です。「重ね重ね御礼申し上げます」のように使います。 十分なことを意味する重々は、重々承知に使われているものと同じ意味です。
「よくよく・不足がないように」といった意味合いで、「重々お気を付けください」のように使います。
なお、重々は『おもおも』と読む場合もあります。「落ち着いて威厳がある」などの意味で使用されますが、重々承知を「おもおもしょうち」とは読まないようにしましょう。
重々承知を使うシーン
重々承知がよく使われる場面は、大きく分けて二つあります。
状況をイメージしながら、各シーンでの使い方について理解を深めましょう。
相手にお願いをするとき
相手に迷惑をかけそうなお願いをする場合や、無理を強いることが予想されるような場合に、「ご迷惑は重々承知しておりますが」のようなフレーズを、本題の前置きとして使います。
「迷惑をかけることは十分に理解している」という思いを伝えることで、依頼のニュアンスを控えめに表現し、遠慮がちな気持ちを表す言い回しです。
相手にダメージを与えそうなことを伝える際に、ショックを和らげる意味合いを含んだこのような表現は、クッション言葉と呼ばれます。
「重々承知しておりますが」などの表現を使えば、相手にお願いをするときに使える、さまざまなバリエーションのクッション言葉を作ることが可能です。
理解していると伝えるとき
相手と話を進めているような状況で、相手の事情や話の内容に関し、十分に理解していることを伝える際に、重々承知がよく用いられます。
「お客様の都合は重々承知しております」のように、敬語表現を前後に織り交ぜ、理解していることを強く伝えつつ控えめな気持ちを示すフレーズが一般的です。
相手の事情を知った上で、譲歩できないような場面や急いでほしい場面など、仕事上起こりうるさまざまな状況でしばしば使用されます。
また、自分に非があった場合の謝罪時にも、非を十分に理解しているというニュアンスで使うことがあります。
目上の人や取引先の人に使える?
重々承知という言葉は、単に二つの名詞が組み合わさったものであり、言葉自体は敬語ではありません。
しかし、相手に敬意を示すことが必要とされる状況で使用することが多いため、目上の人や取引先に使う言葉としては適切な表現といえます。
重々承知を使ってフレーズを作る場合は、表現全体に敬語を織り交ぜて、より相手への敬意が強くなるような言い回しにするのがおすすめです。
ビジネスシーンでの敬語表現に必要不可欠なクッション言葉でよく使われることからも、重々承知が敬意を含んだ言葉であることが分かるでしょう。
重々承知の例文
主にビジネスで使われる例文をチェックしておきましょう。
言い回しのパターンや使用される状況がある程度限定されるため、理解できれば使いやすい言葉です。
重々承知の上~
「重々承知の上~」は、「十分に理解していることを前提に」という意味の表現です。相手の事情や周囲の状況は分かっている上で、要求・依頼・提案をする際によく使います。 下の例文を見ても分かるように、「難しい状況であることはよく分かっているが、それでも目的を達成したい」という気持ちを伝える際に、この表現がよく用いられています。
▼使い方の例
・企画部だけで人手が足りていないのは重々承知の上ですが、何とか明日までに終わらせていただけないでしょうか。
・ 部長がお忙しいことは重々承知の上ですが、我々には良案が思いつかず、あえてお願いに参りました。
重々承知いたしました
仕事をしている環境では、相手からの依頼や指示に対し、理解・了承したという意味で、「承知いたしました」というフレーズが頻繁に使用されます。
頭に重々をつけることで、より深く理解していることや、より重みを感じていることを伝えられます。例文で使い方を確認しましょう。
▼使い方の例
・当案件だけは○月○日の納期を延ばせないとのこと、重々承知いたしました。
・誕生日会をサプライズで実施する件、重々承知いたしました。部長に気づかれないよう、秘密裏に準備を進めておきます。
このように、大切な依頼や確認への返答にこそふさわしい表現です。
多用すると軽率な印象を与える恐れもあるため、適した状況でのみ使うようにしましょう。
重々承知しておりますが~
「十分に分かっているが~」という意味合いを、ダイレクトに逆説の接続詞『が』をつけて示すことで、「重々承知している」という状態をより強調して表現できます。
以下例文のように、相手に依頼・提案・要求をするときや、お詫び・謝罪をしなければならないような状況でよく使われます。
▼使い方の例
・お急ぎであることは重々承知しておりますが、なにぶん立て込んでおりますゆえ、ご希望の納期には間に合いそうもありません。
・ 生産が追いついていないことは重々承知しておりましたが、具体的な対策が立てられず、お客様に多大なるご迷惑をおかけしてしまいました。
お詫びや謝罪で使う場合は、例文で挙げたように、「十分に分かってはいたのですが」と過去形で表現するのが一般的です。
重々承知の類語
知っていることを意味する承知という言葉を含んだ類語を紹介します。
それぞれ意味や使える場面が異なるため、しっかりと理解しましょう。
百も承知
「十分に理解している」という意味を表す代表的な類語として、『百も承知』という言葉が広く使われています。
重々承知と同じような意味ですが、目上の人に対して使うと大変失礼な印象を与えてしまうでしょう。ビジネスでは使用を極力控えるのが無難です。
例文のように、カジュアルな関係の相手に対し、「そんなこと、わざわざ言われなくてもよく分かってるよ」といったような気持ちを伝える際に使います。
▼使い方の例
・あなたたちが結婚することは、みんな百も承知でしたよ。近々お祝いをしましょうね。
・ お酒の飲み過ぎが体に悪いことは百も承知ですが、なかなか止められないんです。
先刻承知
承知を使った類語としては、『先刻承知』という言葉も挙げられます。「ずっと前から、既に」を意味する『先刻』をつけて、「前々から知っている」という意味を表す言葉です。
次の例文のように、知っているという動作の主体が相手や世間に限られます。
自分の認識に対しては使われないということに注意しましょう。
▼使い方の例
・このプロジェクトは先方も先刻承知であり、既に準備を始めているそうです。
・長年のアイドルファンなら、彼の素行の悪さは先刻承知だ。
重々承知のように、重く受け止めるニュアンスは含みません。
「既に」知っていることと、「自分に対しては使えない」ことの二つが、使用における大事なポイントです。
まとめ
重々承知は、難しいと分かっていながらお願いをするような状況で、「無理なことは十分に理解していますが」という気持ちを示す際に使われる言葉です。
迷惑をかけてしまいそうな依頼をする場合や、重大なお願いをされたときにしっかりと理解したことを伝えたい場合などによく使用されます。
類語との違いも正しく理解し、ビジネス上の困難な局面をうまく乗り切りたいときの武器として活用しましょう。