行ってくださいの敬語表現
友人や会社の先輩、お客様などに『~へ行ってください(いってください)』と丁寧に言いたいときは、どんな言い回しを使えばよいのでしょうか? 行くにはいろいろな言い方があるため、迷う人も少なくないはずです。
おいでくださいが一般的
目上の人に対しては『おいでください』が一般的です。
『おいで(御出で)』は、行く・来る・居るの尊敬語(名詞)で『出る』の尊敬語から転じています。 「おいで」のみでは命令口調になるため、丁寧語の『ください』を語尾に付けて相手への敬意を示します。
行くの尊敬表現の中では最も丁寧な表現で、役職が上の相手にも違和感なく使えるでしょう。
▼使い方の例
・台風の後で道がぬかるんでいるので、足元に注意しておいでください。
・私は後で行きますので、どうぞ先においでください。
『おいでになってください』は過剰表現です。おいでくださいでも十分丁寧なため、押しの強い印象を与えないように避けましょう。
行くの尊敬語は?
行くの尊敬語は、行かれる・お出かけになる・いらっしゃる・おいでになる・お越しになるなどがあります。
行かれるは、尊敬の意味を持つ助動詞『れる』を動詞の後ろに付けた尊敬語で、日常では頻繁に用いられます。
▼使い方の例
・今度の食事会は、何時ごろに行かれますか?
・桜が見ごろの時季ですので、京都あたりに行かれるとよいのではないでしょうか?
いらっしゃるとおいでになるは、居る・来る・あるなどの尊敬語で、行かれるよりも尊敬や敬意を示せる表現です。
耳にする機会も多い『参る』『伺う』は、行くの謙譲語にあたります。自分の行動に対してへりくだる言葉のため、上司に対して「今日は何時に参られますか?」とは言わないようにしましょう。
迷いやすい丁寧な言い方
『行く』には、間違いとは言い切れないものの、相手やシチュエーションによってはあまりふさわしくない言い回しもあります。
いらしてくださいと言う人もいる
いらしてくださいは『いらっしゃってください』を言いやすいように略したものです。いらっしゃるは、行く・来る・いるの尊敬語にあたります。
一部の人は行ってくださいをいらしてくださいと表現する場合があるでしょう。
▼使い方の例
・我が家に15時までにいらしてください。
・工場に新しいシステムを導入しましたので、ぜひ見学にいらしてください。
本来、いらっしゃるは『入らせらる』に由来した言葉です。相手が行くのではなく『こちらに来ること』を敬う表現になります。
行かれてくださいは間違いか
日常会話では「行かれてください」という表現もよく耳にします。『行かれる』は動詞の行くに尊敬を表す助動詞『れる』を付けた尊敬語で、間違った表現ではありません。
▼使い方の例
・○○通りを真っ直ぐ行かれてください。数分歩くと右手に赤い屋根の家が見えるはずです。
・ご予約の期日に、こちらの券を持って○○へ行かれてください。担当のものが対応いたします。
ただし、動詞にれる・られるを付けた言い回しは『やや程度の軽い尊敬語』として扱われます。
相手によってはふさわしくない場合があるでしょう。 ビジネスシーンなど敬語が重視される場では、避けるのが無難です。
こんなときの言い方は?
行くに関連した丁寧な言い方をシチュエーション別に紹介します。『相手が自分と一緒なのか』『相手を見送る側』なのかによって、表現が変わる点に注意しましょう。
自分と一緒に行ってほしいとき
気心の知れた友人や同僚の場合には「一緒に行こう」「一緒に行きたい」と、気軽に言えるでしょう。目上の上司や先輩に自分と一緒に行ってほしいときは、どう声を掛ければよいでしょうか?
▼使い方の例
・近くに新しいお店ができたそうです。もしよろしければご一緒にいかがですか?
・お時間がありましたら、夕食をご一緒にいかがですか?
「ご一緒にいたしませんか?」「ご一緒に参りませんか?」はNGです。いたす・参るは自分をへりくだる謙譲表現のため、相手の行動に対しては使いません。
もし、自分が相手にお供をする場合は「私も行きます」という代わりに以下のように表現できます。
▼使い方の例
・君も一緒にいかないか?―はい、喜んでご一緒させていただきます。
・商談には君も一緒に来なさい。―はい、ご一緒いたします。
何かを持って行ってほしいとき
相手に何かを持って行ってほしいとき「持って行ってください」というのはやや粗雑な言い方です。
相手にお願いするときは『持つ』の尊敬語であるお持ちになる・お持ちくださるを用いましょう。
▼使い方の例
・会議に出席される際は、こちらの資料をお持ちください。
・雨が降りそうなので、傘をお持ちになったほうがよろしいと思います。
まぎらわしい表現に『持参する』があります。これは自分の行動に対する謙譲語のため「ご持参いただけますか?」と相手にお願いするときに用いるのは間違いです。
見送るとき
外出する人を見送るとき「いってらっしゃい」と声をかけるのが一般的でしょう。見送る側が使う敬語表現のため、目上の人に使っても失礼にはあたりません。
ただ、家族など身近な人に使う言葉として、距離感の近さを懸念する人もいます。ビジネスシーンや職場で使うのに抵抗がある人は、以下の表現を参考にしましょう。
▼使い方の例
・台風の影響で交通が乱れておりますので、お気を付けてお帰りくださいませ。
・長期の海外出張になりますので、体調にお気を付けていってらっしゃいませ。
語尾に『ませ』を付けて『いってらっしゃいませ』『お気を付けて〇〇くださいませ』とすると、より丁寧でやわらかい表現になります。
ませは、丁寧の助動詞『ます』の命令形です。丁寧な気持ちを込めて相手に依頼・懇願するときに用いられます。
自分が行くとき
『行かせていただく』は間違いではないものの、謙譲語「させていただく」と「行く(動詞)+させていただく」謙譲表現が混同しており、あまりスマートではありません。
自分が行くときは、謙譲語の伺うや参るを使うのが一般的でしょう。伺うは『相手(行く先や相手の会社)のみ』が敬意の対象です。
▼使い方の例
・御社へは14時に伺います。
・今晩の夕食会にぜひお越しください。―はい、私と妻の二人で伺います。
一方で、参るは伺うの代用として相手を立てる際に使えるうえ、自分が話をしている『聞き手』に敬意を払いたいときにも使えます。
上司に「取引先には私が参ります」と言った場合は、取引先ではなく『上司(聞き手)』を立てることが可能です。
▼使い方の例
・鈴木君、休みの日の予定は?―日曜日は兄の家に参ります。
まとめ
目上の人や上司に行ってくださいとお願いしたいとき、どんな敬語を使えばよいか迷う人は多いでしょう。丁寧に表現したいあまり、二重表現になってしまったり謙譲語と尊敬語を間違って使ったりするケースも少なくありません。
行くに関する敬語は、ビジネスやプライベートでよく使われます。うろ覚えで誤って使わないように、フレーズごと覚えておくのがおすすめです。