「お越しいただき」の意味を知ろう
冠婚葬祭やビジネスで来客があった際、よく耳にするのが「お越しいただき…」という挨拶文句です。遠くからの客人を労い、感謝を述べるときによく使われます。
お越しいただきは本来、どのような構成の言葉なのでしょうか?
「来てもらい」の丁寧な言い方
お越しいただきは『来る』の尊敬語の『お越しになる』に、『もらう』の謙譲語『いただく』が組み合わさった言葉です。
『来てもらい』の丁寧な言い回しと考えてよいでしょう。
『お……いただく』という形式は、相手(動作の主体)の行為に対し、自分が『いただく』とへりくだる表現です。
▼使い方の例
・本日はお足元の悪い中、お越しいただきありがとうございます。
・お越しいただき恐縮です。こぢんまりとした個展ですがごゆっくりご覧くださいませ。
動作の主体に『謝意』を示すときや「お越しいただきたく存じます」と相手に『依頼』するときなどに多用されます。
▼使い方の例
・このたび、結婚式を執り行うこととなったので、ぜひお越しいただきたく存じます。
「いただき」は、ひらがなで書く
『お越しいただき』の『いただき(頂き)』には漢字とひらがなの2種類があります。日本語の表記に関するルールは国で定められており、公文書やビジネスメールの中ではきちんと書きわける必要があるでしょう。
お越しいただきの『いただく』は、動詞の後ろについて付属的な意味を添える『補助動詞』にあたり、ひらがなで表記する決まりです。前の動詞に謙譲の意味を加える効果があります。
▼使い方の例
・ご検討いただけると幸いです。
・メールを送りましたので、ご確認いただけますか?
ただし、食べる・飲む・もらうの謙譲語のいただくは『頂く』と漢字で表記しましょう。
頂くの単語自体に動作が含まれているため、本動詞として使います。
▼使い方の例
・お土産のお菓子は、佐藤さんから頂いたものです。
・お菓子は、社員全員で美味しく頂きました。
「お越しいただき」の使い方
お越しいただきは、相手が自分のところに来るときに使う表現で、主に目上の人や身内以外の人に対して使います。
ただ、丁寧な言葉遣いをしようとするあまり、過剰にかしこまってしまうのは避けたいところです。
目上の人に使える
「お越しいただき」は、自分と相手の立場や年齢を比較し『相手が目上の場合』に使えます。
学生時代の恩師や先輩を自宅に招くときや、本社から社長や管理者が視察に来るとき、取引先の顧客が来社するときなどに使うのが適切でしょう。
▼使い方の例
・○○先輩にお越しいただき、貴重なお話をお伺いいたしました。
・このような辺鄙な土地に、お越しいただきありがとうございました。
「自分のために来てくれて」という労いのニュアンスを含むため、言われた相手も悪い気がしません。
▼使い方の例
・社長みずからお越しになるとは恐縮の至りでございます。
『お越しになられ……』を使う人もいますが、お越しになるという尊敬語に、尊敬の助動詞『れる』を付けた『二重敬語』になり、多用すると相手にくどい印象を与えます。
『ください』のまま使うのは避ける
ビジネスシーンで多く用いられますが、いつも一緒に働く同僚に対しては、お越しいただくを使う必要はないでしょう。 基本的に、社外からお客様が来る場合は『社内の人間は身内』と考えます。自分側の人間には過度な尊敬語や謙譲語は使わず『丁寧語』で話すのが通常です。 同僚や部下に来てほしいときは丁寧な命令形の『ください』を使っても問題はありません。
▼使い方の例
・夕食をご馳走したいので、我が家にお立ち寄りください。
ただし、上司へのくださいは上から目線ととられてしまうため、別の表現を使うのがベターです。
女性は語尾に『ませ』を付けると、やわらかで上品な印象になります。
▼使い方の例
・ミーティングは13:00に始まりますので、10分前までにお越しくださいませ。
・〇〇にお越しくださいますようお願いいたします。
依頼するときや感謝を伝えるときの言い方
お越しいただきは、相手に訪問を依頼するときと、相手の訪問に感謝を伝えるときの二つの場面で多く用いられます。
お越しいただきたく存じます
目上の人に、こちらに来てくださいと依頼する場合は、お越しいただきたく存じますの表現を使いましょう。
『いただきたく』も『存じます』も自分をへりくだる謙譲表現です。
▼使い方の例
・ご多忙のところ恐縮ですが、弊社にお越しいただきたく存じます。
「〇〇してほしいと思っているのですが」というニュアンスになり、目上の相手に何かを依頼する、または同意を求める際に用いられます。
よく似た表現ですが『お越しいただければと存じます』は誤用です。
『れば』は「もし〇〇したなら」の意味を示す条件表現のため、ればの後には「そうなるとどうなるか」を示す必要があります。
▼使い方の例
× お越しいただければと存じます
○ お越しいただければ対応いたします。
▼「お越しいただきますよう」も使われる
ビジネスシーンでは『お越しいただきますよう』の表現もよく使われます。『いただきます』は、もらうの謙譲語『いただく』に、丁寧語の『ます』と願望表現の『よう』を組み合わせた言葉です。
▼使い方の例
・ささやかな宴会を準備しておりますので、ぜひお越しいただきますようお招き申し上げます。
・説明会を行いますので、12:45までにお越しいただきますようお願いいたします。
似た表現には『いただけますよう』がありますが『いただける』は「できるなら~してほしい」といった相手の立場に立ったやわらかいニュアンスを含みます。
▼使い方の例
・会員様限定でタイムセールを行いますので、ぜひお越しいただけますようお願いいたします。
いただきますを使った依頼は『~してもらうことをお願いする』と、相手の行動をある程度強制する表現です。ぜひとも出席してほしい場面で用いられる傾向があります。
お越しいただきありがとうございます
来客に対して謝意を示すときは、お越しいただきありがとうございますと言うのが一般的です。
▼使い方の例
・急なお願いにもかかわらず、我が家までお越しいただきありがとうございます。
・足元の悪い中、弊社の記念式典にお越しいただき誠にありがとうございます。
『お越しいただき』には『わざわざ』という意味合いを含んでいます。あえて「わざわざお越しいただき」と付け加えなくてもOKです。
わざわざという言葉には、相手を労うほかに『普通ならしなくてもよいのにそれをする』という意味があります。
手土産を受け取る際に「わざわざ買ってきていただいて……」と言うと「特に必要なかったのに買ってきたの?」といった意味になってしまいます。
気遣いの言葉をかけるなら『遠路はるばる』『お忙しい中』などを使いましょう。
お越しいただき以外のさまざまな言い方
メールや会話の中で「お越しいただき」を連呼するのは、あまりスマートではない場合があります。
さまざまな類似表現があるため、場面に合わせて使い分けましょう。会社・自宅・商談場所など、複数の場面で活用できる便利な言葉です。
ご来訪いただき
目上の人が『自分のいる場所』を訪ねてくる場合は『ご来訪』という尊敬表現が使えます。
▼使い方の例
・本日はご多用中にもかかわらず、ご来訪いただき、ありがとうございます。
『訪問』は自分が相手を訪ねるときに使う表現のため「ご訪問いただき……」と言わないように注意しましょう。相手が自分の会社に来る場合は『ご来社』を使ってもOKです。
▼使い方の例
・つきましては、本日の14:00に弊社にご来社(ご来訪)いただきますようお願い申し上げます。
同表現として『ご来訪くださり』がありますが『相手の意思で来てくれた』という意味になります。
▼使い方の例
・急な都合によるキャンセルの場合は、再度予約を取るためにご来店していただくことになります。
相手の希望に関係なく、何かをしてもらう必要性や条件があるときは『くださり』は使えません。
足を運んでいただき
『足を運ぶ』は、ある目的のためにわざわざ出向くという意味です。
お越しいただきと同じく、わざわざというニュアンスを含む言葉は、相手への労いや感謝の気持ちを示す場面で重宝します。
▼使い方の例
・暑い中、何度も足を運んでいただき、誠に申し訳ございません。
・私たちのために足を運んでいただき、なんとお礼を申し上げたらいいのかわかりません。
ただし、自分が主語のときは「私がわざわざ出かけます」というニュアンスになるため、相手に対して失礼にあたります。
▼使い方の例
× 私が御社に足を運びます。
○ 私が御社に伺います。
結婚式などで使えるお礼のひとこと
お越しいただきは、遠方からのゲストを迎える『結婚式』にぴったりの言い回しです。パーティーが始まる前の挨拶や、参加してくださったゲストへのお礼状に使ってみましょう。
▼使い方の例
・ご列席のみなさま、本日はお忙しい中、足を運んでいただきありがとうございます。
・あいにくの空模様にもかかわらず、大勢のみなさまにお越しいただき、うれしい気持ちでいっぱいです。
来ていただくは『ご列席(ご出席)いただく』や『お集まりいただく』にも言い換えることが可能です。
▼使い方の例
・私たちの結婚式にお集まりいただき、誠にありがとうございます。
・先日は、私どもの結婚披露の小宴にご列席いただきありがとうございました。
まとめ
上司や目上の人に「来てもらえませんか?」「今日は来てもらってありがとう」と伝えるのは失礼にあたるため、お越しいただきを使って相手を敬う姿勢を示しましょう。
相手に来てもらうという意味の敬語表現はたくさんあります。ビジネスやパーティーで目上の人をお迎えした際、すんなりと口から出てくるようによく使うフレーズを覚えておきましょう。