1.生理をきっかけに“当たり前”を見直す
柿沼さんが立ち上げたブランド、「エミリーウィーク」は、生理週間を軸にした女性の体のバイオリズムに寄り添うアイテムを提案しています。
生理に着目したファッションブランドというのは、今までになかった視点。柿沼さんは前職のウェブ業界にいたときに、ブランドのアイディアを思いついたのだそう。
「当時は深夜まで働くことも当たり前の環境で、長時間労働は特に生理の時期は辛かったですね。ただ、生理のつらさはどこか“当たり前のもの”として、受け入れていました。でもあるとき、体調を崩し、初めて今まで何も考えずに使い続けていたものや習慣を見直したんです。
母から教えられるがまま使っていた「紙ナプキン」を布製のナプキンに変えてみよう、睡眠の質をあげるためにアロマを使ってみようなど……。すると翌月、生理中のイライラが少し収まっていたり、体がラクになっていたりして、自分で情報を集めて、試して、観察するのがだんだん楽しくなったんです。
私にとってこの事はかなりの衝撃でした。『今まで生理に対してなんて受け身だったんだろう』って。固定概念が外れたというか、意識が変わったというか、大きな出来事であり、私のなかで大きなターニングポイントだったと思います。
忘れもしませんが、私、25歳の誕生日に、これからの人生や仕事についてすごく考えたんですよね。当時は、年齢に対しても漠然とした焦りがあって、何か自分に軸が欲しいという思いも強かったと思います。私はこの先自分の人生をどうやって動かしていったらいいんだろう……、いったい何がやりたいんだろうと、お風呂で半身浴をしながら考え続けました。
そして考えれば考えるほど、私の人生のなかで大きかった出来事は、『今まで受け身だった生理に対して、自分で試して改善したら、体がラクになったこと』だったんです。だったら、このことを世の中に発信していこうと。
人生で大事なことや、やりたいことを見つけるのは簡単ではないですが、今まで自分が当たり前にしていたことを、ひとつ変えてみるというのは有効なのかもしれません。私はそれが転機になりましたから」
2.日常を見直す事で気づいた本当の“欲求”
この時から、いつか女性の体のリズムに寄り添ったブランドをつくりたいと思った柿沼さんは、2014年11月にベイクルーズへWEB販促プランナーとして転職。ウェブ業界からファッション業界へ大きな転換を図ります。
「最初の会社で体調を崩してしまったあとは、同じ業界で少しゆっくりできるような環境を選んで転職しました。ブランドの構想は頭のなかにありましたが、その夢はいつか個人でECサイトなどを使って始めようと思っていたんです。
でもしばらくして、『やっていることも前と何も変わっていない』と思うようになって……。私、ずっと同じところをグルグルしている感じがすごく苦手なんですよね。
もしも目の前にふたつの選択肢があった場合、より想像がつかない方、より自分が変われそうなほうを選びたいと思っています。その方が楽しいじゃないですか。
ブランド自体もそう。『エミリーウィーク』は等身大の悩みや思いをもって立ち上げたブランドなので、今後年齢を重ねたり、出産や育児でライフステージが変わったりと人生の変化と一緒にブランドの考え方や内容も少しずつ変わっていってもいいと思っています」
3.気づいてからすぐにアクションを起こす、“行動力
転職して間もなく、柿沼さんは思わぬチャンスに出合います。そして、そのチャンスを前に行動を起こすと、今まで頭のなかにあったアイディアがスピーディに実現していくことに。
「今の会社に入ったその翌年、『新規事業の募集』がかかったんです。これは神様からのプレゼントかも!(笑)と思い、これまで温めていたことを思いきって提案してみました」。
プレゼンでは、その場にいた役員が9割方全員男性だったにもかかわらず、コンセプト自体すごく好意的に受け入れられたそう。
「デザインの力でブルーな気持ちを少しハッピーにしたり、質のいい肌触りで心地よくなること、エミリーウィークがやろうとしていることは、ファッションの力を体現しているねと言ってもらえたのはうれしかったですね。
今は、ブランドコンセプターという肩書きで働いていますが、仕事内容としては、バイイングや販促業務……何から何まで全部、という感じです(笑)。アイテムもオーガニックコットンを使用したサニタリーショーツやシルクのパジャマ、布製のパンティライナー、体のサイクルに合う精油等、好評をいただいています。特にオーガニックコットンを使用したアンダーウェアは、口コミで広まったり、リピーターの方も多く人気です。
これからも女性たちがちょっと休憩したいときなどにフラッと訪れて、ふっと気が抜けるような心地いい空間にしたいと思っています」
新しいアイディアを得て、転職、ブランド立ち上げ、と人生をダイナミックに動かしていく柿沼さん。根底にあった思いは「自分の軸をもちたい」「変わりたい」という誰もがもつ思い。そして、その最初の一歩は、「当たり前にしていたことをちょっと変えてみること」でした。
選択に一つの正解はなく、人それぞれに正解があります。何を選択したかではなく、柿沼さんが選択できた理由。
あなたにとって“当たり前”になっているけれど、“ちょっと変えてみたいこと”は何ですか?その答えが、漠然とした気持ちのモヤモヤを解決するきっかけになるかもしれません。
PROFILE:柿沼あき子
2009年に女子美術大学絵画学科を卒業後、同年にベンチャー企業へWEBディレクターとして就職。その後WEBプロモーション企業を経て、2014年(株)ベイクルーズへWEB販促プランナーとして入社。同社のスタートアップ制度にて、女性のバイオリズムに寄り添ったライフデザインを提案するショップ「エミリーウィーク」を社内提案し、2017年9月に事業化。9/14~/30の期間、アトレ恵比寿本館4階フォンテーヌ広場にて、ポップアップショップを開設予定。
Photographer : Satoko Tsuyuki Text : Noriko Oba